irodori_book’s diary

本を読む幸せとは作者の描く登場人物の考えが自分の考えにシンクロして陶酔するような感覚が稀にあること。一人でも多くの人に特別な一冊が見つかればいいと思うので、大切な本の紹介を続けます。

道尾秀介『カラスの親指』とっておきのラストを堪能しよう

カラスの親指 by rule of CROW’s thumb (講談社文庫)

カラスの親指 by rule of CROW’s thumb (講談社文庫)

映画化もされ、道尾秀介といえばこの作品を思い浮かべる人も多いと思う。

落ちぶれ気味の詐欺師のコンビが大作戦を繰り広げるのだが、二人とも悲しい過去が実はあり…。

最後にどんでん返しのフルコースが待っているわけで、映像化することでヒットするだろうなぁと思っていた。

道尾秀介作品が徐々に形作られてきていると思える作品で、今後もミステリーの体裁で登場人物の心の動きの変化を楽しませる作風が続く。

新作はやっぱり気になってしまう作家だ。

カラスの親指 by rule of CROW’s thumb (講談社文庫) [ 道尾 秀介 ]

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東野圭吾『希望の糸』関係者の思いが大渋滞

希望の糸

希望の糸

日本で東野圭吾さんを知らない人はあまりいないのではというのは、本読みの勝手な印象だが、これだけ多くの作品を世に送り出し、ドラマ化、映画化している日本でも指折りの作家界のヒットメーカーであることは間違いない。

そんな東野圭吾さんの令和最初の長編ミステリーが本作である。帯にも東野圭吾の最高傑作とまであって、ファンは待ち焦がれていたであろう。

冒頭、不幸な事件から始まる本作は、2つの出来事が絡まりながら進んでいく。一つは殺人事件、もう一つは主人公の家族にまつわる真実。事件のミステリー部分はあっけなく明かされるが、それよりも事件の背景で関わった人びとの切実な思いや相手を思いやる気持ちに胸がつまる。

それにしても、大きな出来事は2つなのに、たくさんの人たちの現在と過去、それぞれの思いが丁寧に描かれ、もはや大渋滞だ。しかし、押し寄せる感情の渦にまかれて、それが心地よい。

血のつながりのある親子、ない親子。それは過ごす時間と互いの絆により、問題とならない場合もある。一緒にいるということは奇跡のようなものだと感じた。

ちなみに、前情報なしで読むと、まさかの東野作品の登場人物が現れファンには嬉しい。

やはり、東野圭吾さんはエンターテイメントとして、本当に素晴らしい作品を提示してくれる日本屈指の大作家だ。

希望の糸 [ 東野 圭吾 ]

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梨木香歩『雪と珊瑚と』食の彩りと過酷なシングルマザー

雪と珊瑚と (角川文庫)

雪と珊瑚と (角川文庫)

梨木香歩さんはとても自然味のある方だと思う。

西の魔女が死んだ』は今でも読み継がれる名作であり、それ以外にも『裏庭』や『家守綺譚』など個人的にはちょっと難解な作品も出していて、おそらく自然を感じることに優れている作家だと思っている。

『雪と珊瑚と』ではシングルマザーの珊瑚が赤ちゃんの雪を、近所のおばあちゃんに預けるところからはじまる。シングルマザーとして働くための開業するのだが、、。

食が注目される作品だが、子供との関わりも主題に挙がる。暗い部屋に雪を置いてきぼりにするシーンがあるのだが、子を持つ方ならゾッとするほどリアリティがあると思う。

心に残る本だと思う。


雪と珊瑚と (角川文庫) [ 梨木香歩 ]

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岩井俊二『ラブレター』昔の恋は忘れられない

ラストレター

ラストレター

昔の恋に勝てる恋なんてあるのだろうか?

男性で純度の高いラブストーリーを書かせたら右に出るものは少ないと思う岩井俊二のノベライズなのだが、多くの人は『ラブレター』を思い出すとも思う。

男性の描く男性は得てして女々しくなる場合がある。今回も女々しさが先行するのだが、相変わらずやさしい空気が、作品には流れている。

物語は、死んでしまった昔の恋人の妹との変わった文通(にもなっていないが)から、娘たちも巻き込んで、それぞれの思いを知るひとりの男が主人公だ。同窓会で再開したのは昔の恋人の妹だった。なぜか姉を演じる妹に疑問を感じながらも、ひょんなことから手紙を受け取り続けることになる。姉の死、子供たち、姉の結婚など、過ぎ去りどうしようもないことを知り、主人公は女々しくもいくつかの偶然に救われていく。

死は人を集める。愛されていた人ならばなおのこと。死から始まる物語は、どのように着地するのか。タイトルの意味はなにか。

コンスタントに作品を発表し続ける岩井俊二監督の映画原作ノベライズ。

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角田光代『八日目の蝉』心に残る角田光代さんの傑作がここに

八日目の蝉 (中公文庫)

八日目の蝉 (中公文庫)

映画化もされた角田光代さんの傑作長編小説。
愛人の子供を誘拐し、自分の子として育てる女性の逃避行と、その後が描かれる。

作家は経験したことのないことも想像し、文字としていくわけだが、本当に経験せずにここまでのことが書けるとは、これはもう才能以外のなにものでもない。もちろん努力もあるだろうが。

何かの書評で角田光代さんは人の人生にとても興味があるとの記載があったことを思い出す。
心理描写は、多くの取材と興味を持って人の人生を丁寧に聞いたり読んだりすることで培われたものだろう。

八日目の蝉は善悪を通り越して本当の親子ではないなかでの苦悩と、そして、その壮絶な先に迎える結末に、しばらく呆けてしまう、そんな体験ができるとてもすごい本だ。

八日目の蝉 (中公文庫) [ 角田光代 ]

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中村航『あのとき始まったことのすべて』それでもみんな愛していた

思い出すとチリチリと痛む昔の恋。大人になって再開した同級生だった男女と、学生時代の思い出が交差して物語が進む。

学生時代仲の良かった4人が社会に出て再開するといった、これまた普遍性のある王道物語なのだが、なぜこんなにも胸をつくのだろうか。
一つひとつのエピソードが甘く、そしてラストに効いてくる。

大人になりきれないって誰にでもあって、それをどこか肯定してくれる温かさのある登場人物たちに癒される。

大人になってどう生きているのか、ちょっと彼らの出来事を覗かせてもらうような読み心地で、とても心地よい。

優しくて、時に切ないのは中村航作品の特徴で、魅力でもある。

気持ちにささくれができた時に読みたい。

あのとき始まったことのすべて (角川文庫) [ 中村航 ]

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小川洋子『博士の愛した数式』優しさに満ち溢れた愛の物語

博士の愛した数式 (新潮文庫)

博士の愛した数式 (新潮文庫)

事故の後遺症により、80分しか記憶を維持できない博士と、博士の家の家政婦となった私、そしてルートと博士に名付けられた私の子供の物語。

家政婦として博士の身の回りのお世話をするのは大変で、なかなか定着しないなか、私とルートは記憶を持たない博士と、確かに絆を結んでいく。

なんて優しくて、切なくて、暖かな気持ちになる物語だろうか。小川洋子さんのあまりに素敵な文章によって、登場人物たちの気持ちがしっかりと読み手に届く。

様々な愛の形があり、3人の間には紛れもなく一種の愛の形があった。

今では定着した本屋大賞の初代受賞作にして、小川洋子さんの最高傑作だと思う。

博士の愛した数式 (新潮文庫) [ 小川洋子(小説家) ]

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